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         私たち二人の噂は、その日のうちに聖地中を駆けめぐり……。 
        私とジュリアスがモタモタしてるのを無視して皆は次の日の曜日に婚姻の儀とパーティを用意してくれて、怒濤のうちにそれは、終わって……そして、そして、ついに夜が来た。最初、どちらがどちらに住まうか……で少し揉め事があったのだけれど、結局、光の館に住まうことになったの。朝起きて、ジュリアスと二人して宮殿に向かうの。なんだか共働きみたいだねぇ、ってオリヴィエに冷やかされた。
         
         ……そういうわけで、今、パーティが終わって、私は光の館のジュリアスの私室にいるわけなんだけれど……。さっき、ジュリアスは、「今日はそなたも疲れたであろう、バスルームを自由に使い、楽にすると良い。私は執事と明日の予定を打ち合わせてくるゆえ」って言って出て行ったきり戻って来ない。私はもうバスルームからとっくに出て、主星にいた頃なら、パーティドレスとしか思えないような、この日の為に用意したすっごく素敵な真っ白のコットンのナイティも着て、待ってるっていうのに……。一時間くらい待ったかしら……ようやくジュリアスが戻ってきた。 
         
        「すまぬ、待たせてしまったな……怒っているのか?」 
        「いいえ、ちっとも」 
        「そうか、私はいまから身支度をするので、まだ少しかかる。先に休んでいてくれてもよい。奥の間の寝所に寝具は整わせてある」 
         
         ジュリアスはそういうとバスルームに消えて行った。(寝具は整わせてある)だって。もう、私たちの寝室なのに〜〜。なんだかぜんぜん、そんな雰囲気じゃない。 
         でも、私は一応寝室に入った。天蓋付きのベットが象眼作りのナイトテーブルを挟んで置いてある。古い方が元々のジュリアスので、新しい方が私の為に用意されたもの。見た時はロマンチックで素敵な天蓋付きベットだと思ったけれど、垂れ下がっている紗のカーテンが二つのベッドを遮断してるみたいに思えてきた。ちょっと考えて、私はジュリアスの方のベッドに入った。だって、このまま自分のベッドに入ってしまったら、あの……その、また何もなくて、寝入っちゃいそうで。だから、勇気を出して、天上から薄靄みたいに下がったカーテンを開けて、ジュリアスの羽布団の中に滑り込む。ひんやりとしたシルクのシーツが気持ちいい。 
         
         しばらくして寝室のドアが開いた。私はお布団から目だけ出して、ジュリアスの様子を探った。薄く透けたのカーテンの向こうにジュリアスがほんやり見える。ジュリアスはローブ姿で、まだ湿っているみたいな髪を掻き上げながら入ってきて、二つのベットを見比べて立っている。ジュリアスは少し考えたふうにして、私のベットのカーテンを開けると、「アンジェリーク、もう眠ってしまったのか……?」と囁いた。 
         
         (そっちにいるんじゃないのに〜やだ、もう。やっぱりジュリアスのベッドに入って待つなんてしない方がよかった〜)恥ずかしくて答えられないでいると、ジュリアスも私のベットに誰もいないと気づいたらしい。 
        「ああ……いない……待たせたので、怒らせてしまったのか……はっ、宮殿に戻ってしまったのか!」 
         慌てて追おうとするジュリアス。(違うの、違うの〜)私はモゾモゾと起きあがると、ジュリアスの名を呼んだ。その声に振り向いくジュリアス。 
         
        「そこにいたのか……」 
         ホッとしたような優しい声。 
        「ごめんなさい、隠れてたの」 
        「危うく宮殿にまで行くところであった。私は花嫁に逃げられたと笑い者になるかと思ったぞ」 
        「私だって花婿に置いてけぼりにされた花嫁になっちゃうかと思ったんですもん」 
         
         それから……ジュリアスはもう何も言わなかった。ただ笑っていた。恥ずかしくて俯いた時に、ジュリアスの手が伸びてきたけど、ギユッと目を閉じちゃったので、ジュリアスがどんな顔をしていたか知らない。ギラギラと血ばしっちゃって、息なんかもはぁはぁ荒かったりして、狼に変身していてもそれは、それで。 
         ううん、きっととても優しい目をしていたわよね。私はジュリアスにそっと押し倒されて、耳たぶにキスされて……。 
         ふいに、ジュリアスの笑う声がした。「クックックッ」と。目を開けるとジュリアスが、可笑しくてたまらないと言うように笑っている。 
         
        「あ、……あの、どうしたの?」 
        「アンジェリーク、そなたは相当、意地悪だな、そのボタンは意地悪以外の何者でもない」 
        「え?」 
         私は自分の胸元を見た。綺麗なレースと細いタック……と襟から裾までずうっと続く小さなくるみボタンがとても可愛いでしょ……あ。 
         
        「なんという面倒な。さそがし着るのにも手間取ったであろうに」 
        「そんなことないわ、上の方だけ外して、バンザイすれば、いいんだもの」 
        「では、私が上の方だけ外すから、自分で脱ぐといい」 
        「すっごい意地悪、も、信じられない、知らない、口惜しい〜」 
         
         私はジュリアスに背を向けて、枕に顔を埋めた。ジュリアスの匂いがした。……ねぇ、もう……。 
         
        「アンジェリーク」 
         とジュリアスが呼んだ。枕から顔をあげると、ジュリアスの顔があった。キス。長いキス。ジュリアスの手は、一生懸命、例のボタンと格闘してる。十個くらいかな……外したところで、唇が離れた。 
        「ふ……先は長いな……全部外し終わるまで、ずっとこうしていようか」 
         ジュリアスはそう言って、またキス。でも、大丈夫、夜明けまでまだまだあるもの……、もう門限もないんだもの……ね。 
          
         
         以下、さらなる展開は来年に続く……。(^^)/ 
         
         
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