| ◆ THE LAST HOUR ◆ 
 
 彼はいつも眠りにつく前に日々の出来事を書き記す。
 暖炉の側のキャビネットは、彼の日記の保管庫となっている。
 今宵、最後の頁を書き終えた彼は、いつものようにキャビネットの鍵を
 開けてきちんと日記を仕舞った。
 ふと、思いたって彼は、数十冊もの過去の日記の中から或る一冊を選び出した。
 
 緋色の革表紙に金色の神鳥の型押しがしてある古い日記の、
 最後の頁には一枚の写真が挟んである。
 
 今は色褪せてしまったその写真の中で、彼の友人が澄ました顔をしている。
 “記録用にと無理矢理撮らされた写真だが、
 それにしては珍しく穏やかな顔をしている……”
 と、彼は懐かしく思い返す。
 
 あれから……。
 彼の上では随分と時が過ぎていた。
 蒼い瞳の色だけはそのままだったが、彼は老い、
 黄金に輝くと言われた髪も、月の明かりを集めたような静かな色に変わった。
 
 「まだそなたは聖地にいるのか……」
 写真の中の変わらぬ友の姿を見つめ、
 もはや一瞬の想いだけでは追いかけられないほどの
 時の隔たりを彼は感じていた。
 
 「誰にも誇れるよい人生であった……あれもそうだといいのだが……」
 彼は、いつも何か寂しげだったその友の後ろ姿を思い出す。
 
 最期の時を穏やかに感じながら、彼は暖炉の前の揺り椅子に腰掛けて、
 懐かしい聖地を想う。そして瞳を閉じる。
 
 「クラヴィス……」
 
 ジュリアスは、自分の両手に深い安らぎのサクリアが
 そっと満ちてくるのを感じながら、古い友の名を呟いた。
 
 
 *タイトル出典 『DEAD END』/ GODIEGO : THE LAST HOUR 
より
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